東京都における動物由来感染症調査結果の概要-検査項目
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クラミジア Chlamydophila spp.
クラミジアに属する微生物から感染する疾病にはオウム病やトラコーマがある。オウム病は鳥類などから罹患する呼吸器感染症であり、感染した鳥の排泄物、羽毛、塵埃などを吸入して感染する。トラコーマは主にハエが媒介し、眼に感染して結膜炎を起こす。
オウム病
<人の症状>
潜伏期は1から2週間で、高熱と呼吸器症状を呈して重篤な肺炎に進行する。軽い場合はかぜ程度の症状であるが、高齢者などでは重症になりやすい。
<動物の症状>
感染動物(主に鳥類)は長期間にわたって唾液やふん便にクラミジアを排出する。雛鳥が罹りやすく、また成鳥では軽症のまま長く保菌するものもある。
<その他>
血清診断が主体となるが、他のクラミジア種の感染でも陽性となる。
リステリア Listeria monocytogenes
リステリアは多くの哺乳動物、鳥類をはじめ食肉、乳および乳製品、飼料さらに水、土壌などの各種環境に広く分布している。健康な人や動物とも低率ながら保菌し、環境への汚染源となっている。リステリア症は、人や動物の双方に髄膜炎や敗血症あるいは流産などを起こし、致死率が高い。近年、特に食品媒介性の感染症として注目されている。
リステリア症
<人の症状>
新生児、乳幼児で多発する。髄膜炎や敗血症が見られる。妊婦では死流産を起こす。
<動物の症状>
反芻動物では主として脳炎、まれに流産がある。単胃動物では脳炎、敗血症が見られる。予後不良で致命率が高い。
ブルセラ Brucella canis
ブルセラ属菌のうち、ブルセラ・カニスは犬が自然宿主である。感染した犬の流産胎子、流産後の排出物、尿に接触して感染する。
ブルセラ症
<人の症状>
発熱、関節痛、悪寒等のインフルエンザ様症状を示す。
<動物の症状>
犬で胎盤炎、死・流産、清掃炎、陰嚢の皮膚炎・潰瘍等を起こす。
バルトネラ Bartonella henselae
バルトネラ属菌のうち、バルトネラ・ヘンセレは猫の爪や口に分布している。猫間での感染は、猫同士のケンカによる創傷や、感染猫の血液を吸ったネコノミの媒介により伝播する。人は猫に咬まれたり、引っかかれたりすることで感染する。
猫ひっかき病
<人の症状>
傷口に近いリンパ節の腫れが続き、化膿することもあるが、ほとんどが軽傷である。発熱やだるさなどの全身症状が現れることもある。
<動物の症状>
猫では無症状である。
エルシニア Yersinia spp.
非病原菌は各種動物、植物、水、土壌などから分離されるが、病原菌は分布が限られる。幼若豚の保菌率は高く、また外見上健康な犬、猫、ネズミの保菌率も高い。外国では豚のほか、チンチラ、サルなどでの発生例が知られているが、動物の自然界における顕性感染は多くないと考えられている。 人への感染では1から2歳児に感染発生のピークがある。日本では大規模な集団感染が発生しており、食品が原因と考えられている。感染様式は不明な点も少なくなく、多くは保菌動物から飲食物を介する感染と考えられている。
エルシニア症
<人の症状>
多彩な臨床症状を示す。乳幼児、小児の場合は腹痛、下痢・腸炎が主体であるが、虫垂炎や腸間膜リンパ節炎も起こす。
<動物の症状>
多くの場合不顕性感染である。サル、犬、猫、豚ではまれに下痢、サルの肝臓に結節を起こす。
<その他>
臨床症状のみから本病を診断することは不可能である。ふん便や病理組織からの菌検出あるいは血中抗体価の測定を行う。
仮性結核
<人の症状>
エルシニア症の場合と類似しているが、本症の方が重症である。高熱としょう紅熱様あるいは風疹様発疹を特徴とする場合もある。
<動物の症状>
豚、猫、犬などのほ乳類、鳥類の腸管に本菌は分布している。多くは不顕性感染であるが、ときどき、サル、チンチラ、野ウサギ、野ネズミなどのげっ歯類、七面鳥などの鳥類などに発生が見られる。しばしば激しい下痢を起こすが、敗血症や結核様病変をつくることがある。
サルモネラ Salmonella spp.
サルモネラを保菌している動物が食品や環境を汚染し、人に対する直接、間接の感染源となる。多くの場合食品媒介の急性胃腸炎として発生し、食中毒として取り扱われている。 また、食品媒介のほかに愛玩動物との接触感染も報告されている。特に乳幼児は感受性が高く注意を要する。
サルモネラ症
<人の症状>
成人は軽症が多いが、悪心、嘔吐、下痢を主徴とする胃腸炎を起こすこともある。年齢層が若くなるにつれて症状は激しくなり、乳幼児ではチフス様症状、敗血症、髄膜炎などを起こすこともある。
<動物の症状>
成獣では一般に不顕性感染が多いが、発熱や下痢、妊娠しているものでは流産などを起こすことがある。幼若獣では急性経過をとり、敗血症で死亡することもある。犬や猫も不顕性感染が多く、またミドリガメは全く無症状である。
黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus
ブドウ球菌属のうち、黄色ブドウ球菌のみが食中毒の原因菌である。健康な人でも鼻腔や腸管内に保菌しており、食品や自然界にも常在している。
黄色ブドウ球菌を原因菌とした食中毒
<人の症状>
黄色ブドウ球菌がエンテロトキシン(腸粘膜に作用して下痢を起こす毒素)を産生し、食品と共に摂取すると、嘔吐を起こす。ただし、食品の中で十分に増殖していないと、発病の毒量には達しない。
腸炎ビブリオ Vibrio parahaemolyticus
好塩菌の一種で、沿岸の海水中や海泥中にいる。水温が 15℃以上になると活発に活動する。このため、海水温度が高く、海水中に腸炎ビブリオが多い時期に獲れた魚介類には、腸炎ビブリオが付着しており、漁獲後や流通過程、調理中などの不適切な取扱いにより増殖し、食中毒の原因となる。
腸炎ビブリオを原因とした食中毒
<人の症状>
潜伏時間は8時間から24時間(短い場合で2、3時間)で、激しい腹痛、下痢などが主症状。発熱、吐き気、嘔吐を起こす人もいる。
赤痢菌 Shigella
経口感染する急性腸炎。世界的にまん延していて、日本でも発展途上国からの帰国者などから患者が多く発生している。
赤痢菌に感染する動物は、主に人や一部の霊長類であり、食品や器物等を介して人から人へ経口的に感染するので、国内で発生することも少なくない。保育園や学校、福祉施設、宿泊施設などでは、人と人の接触が多いため集団発生になることがある。
赤痢菌を原因とした食中毒
<人の症状>
潜伏時間は1~7日(多くは4日以内)で、症状は大腸炎(粘膜の出血性化膿炎)、発熱、下痢、嘔吐、腹痛、しぶり腹、膿・粘血便等
セレウス菌 Bacillus cereus
土壌細菌のひとつで、土壌・水・ほこり等の自然環境や農畜水産物等に広く分布している。耐熱性(90℃60 分の加熱に抵抗性)の芽胞を形成し、増殖至適温度28~35℃である。また、おう吐を起こす毒素も熱に強く、126℃90分でも失活しない。
セレウス菌を原因とした食中毒
<人の症状>
- 下痢型
潜伏時間は8~16時間で、症状は腹痛、下痢等 - 嘔吐型
潜伏時間は30分~6時間で、症状は吐き気、嘔吐等
犬糸状虫 Dirofilaria immitis
犬糸状虫の成虫は犬の右心室や肺動脈に寄生しており、血中にミクロフィラリアを産出する。吸血によって蚊に取り込まれたミクロフィラリアは蚊の体内で感染幼虫に発育する。感染幼虫をもった蚊に人や犬が刺されると、体内に感染幼虫が侵入する。宿主としては犬が重要だが、まれに人でも感染する。
犬糸状虫症
<人の症状>
肺梗塞、肉芽腫、栓塞性血管炎を起こす。
<動物の症状>
咳、貧血、呼吸困難、心肥大等を起こす。
カンピロバクター Campylobacter jejuni、Campylobacter coli、Campylobacter fetus
牛や鶏等の腸管内に分布し、食品や水から感染して食中毒の原因となる。また、犬猫の下痢症からも菌が分離されており、ペットからも感染する。水様性下痢が何日か続いた後に、神経症状を示すギランバレー症候群を発症する場合がある。
カンピロバクター症
<人の症状>
腸炎、発熱、水様性下痢、腹痛、頭痛を起こす。嘔吐はそれほど多くない。
<動物の症状>
多くは無症状のものが多い。犬猫で下痢を起こすことがある。
病原大腸菌(下痢原性大腸菌) Escherichia coli
人や動物の腸管内あるいは食品や川の水などの自然界に広く分布している大腸菌のうち、人に下痢などの症状を呈するものを病原大腸菌と呼ばれていて、病原因子から5つに分類される。その中でも、人と動物との共通感染症として特に重要なものとして腸管出血性大腸菌について説明する。
- 毒素原性大腸菌(ETEC)
- 組織侵入性大腸菌(EIEC)
- 腸管病原性大腸菌(EPEC)
- 腸管凝集性大腸菌(EAEC)
- 腸管出血性大腸菌(EHEC)
腸管出血性大腸菌感染症
<人の症状>
血便等の症状を呈する腸炎を起こし、乳幼児や高齢者では溶血性尿毒症症候群を併発し重症化することもある。わが国では、O157による食中毒が多い。
<動物の症状>
牛の大腸菌症として、子牛の下痢症や牛の乳房炎、豚の大腸菌症として敗血症や浮腫病、鶏の大腸菌症として急性敗血症等の症状を引き起こす。
Q熱コクシエラ Coxiella burnetii
原因不明な疾患としてQ(query)と命名された。細胞内に寄生するリケッチアの一種で、熱や乾燥に強く、感染動物の尿や糞や乳汁に排泄された菌が環境等を汚染し、それを人が吸い込むことによって感染する。
感染経路は家畜やペットである。
Q熱
<人の症状>
発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感等インフルエンザ用の症状を示す。
<動物の症状>
症状を示さない不顕性感染がほとんどであるが、妊娠している牛や羊が感染すると流産を起こすことがある。
皮膚糸状菌 Microsporum spp. 、Trichophyton spp.
カビの一種で環境中にも生息する。人や動物に感染すると発赤、掻痒、脱毛等の症状を呈することがあり重症化することもあるので注意が必要である。
皮膚糸状菌症
<人の症状>
発赤、激しいかゆみ、フケが落ちる、脱毛等
<動物の症状>
発赤、激しいかゆみ、フケが落ちる、脱毛等
クリプトコッカス Cryptococcus neoformans
本菌は自然界に常在するカビの一種である酵母である。特に人の感染症として重要なものとして、Cryptococcus neoformansがあり、ハトのふん便から高率に分離されることが知られている。乾燥したふん便を吸入することなどで感染することがある。
クリプトコッカス症
<人の症状>
肺に感染すると発熱、肺炎などの症状を呈する。免疫が低下している場合には神経系に感染し、髄膜炎などの症状を呈する。
<動物の症状>
感染しているハトなどはほとんど症状を示さない。免疫が低下している猫では神経症状を呈することがある。
トキソプラズマ Toxoplasma gondii
猫を終宿主とした寄生虫であり、人や動物も感染しても症状を示さないことが多いが、妊娠2~6ヶ月のトキソプラズマ初感染の妊婦では、胎児に感染が起き、重篤な症状を示す場合があるので注意が必要である。
トキソプラズマ症
<人の症状>
健康な成人ではリンパ節が腫れるなどの症状を呈する。しかし、妊娠中に感染と胎児に重篤な全身症状を呈することがある。また免疫が低下している状態で感染したときも同様である。
<動物の症状>
感染をしても症状を示さない動物が多いが、免疫が低下している場合には肺病変に伴う発熱、呼吸困難、咳といった症状が見られることがある。
エキノコックス(多包条虫) Echinococcus multilocularis
多包条虫は本来キツネとネズミの間で生活環を形成しているが、犬でも感染して虫卵を排泄する。日本における流行地は北海道であり、キタキツネ及び犬が感染源となっている。人への感染は虫卵を経口摂取することで成立する。
エキノコックス症
<人の症状>
潜伏期が約10年以上といわれており、感染初期は無症状だが、経過とともに肝機能障害を起こす。進行すると肝腫大を起こし、黄疸や腹水を呈する。
<動物の症状>
犬やキツネは感染している野ネズミを摂食することで感染するが、終宿主のため、ほとんど症状を示さない。
瓜実条虫 Dipylidium caninum
瓜実条虫の成虫は犬や猫の腸管に寄生する。中間宿主であるノミやハジラミを経口摂取することで、人へも感染することがある。
瓜実条虫症
<人の症状>
多くは軽症だが、子供が感染すると消化障害や神経症状が見られることがある。
<動物の症状>
多くは軽症だが、寄生数が多いと出血性腸炎を起こすことがある。
回虫 Toxocara
ペットの回虫として重要なものに犬回虫と猫回虫があり、それぞれの宿主の体内の小腸に寄生する。ふん便から環境に排泄された虫卵が口から入ることで感染し、虫卵からふ化した幼虫が人の体内に迷入することで症状を呈する。
回虫症
<人の症状>
内臓に移行すると、悪寒、発熱、筋肉痛等の症状を呈する。また、眼に移行すると視力低下や硝子体混濁、ブドウ膜炎などの症状を呈する。
<動物の症状>
感染した犬や猫はほとんど無症状であるが、大量に感染すると下痢等の症状を呈する場合がある。
ジアルジア Giardia lamblia
ジアルジア原虫は寄生虫の一種で、感染したふん便で汚染された水を飲んだりすることによって感染が成立する。
ジアルジア症
<人の症状>
下痢、腹痛などの症状を呈する。胆管に寄生した場合は、肝機能障害、黄疸の症状を呈する場合がある。
<動物の症状>
動物種を問わず、下痢の症状がでる。
疥癬虫(ヒゼンダニ) Sarcoptes scabiei
ダニの一種で、皮膚に寄生する。人から人への直接接触による感染がほとんどである。動物に寄生するヒゼンダニが、一過性に人に寄生することもある。
疥癬症
<人の症状>
表皮内にダニがトンネルを掘るため、非常にかゆく、脱毛や皮膚が厚くなったり、かさぶたができたりする。引っかいて化膿することもある。ダニの死滅後もアレルギー反応が続くことがある。
<動物の症状>
人と同じ症状を示す。
コリネバクテリウム・ウルセランス Corynebacterium ulcerans
ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)と同様にコリネバクテリウム属に分類される細菌である。動物との接触、飛沫により感染する。
コリネバクテリウム・ウルセランス感染症
<人の症状>
初期は、発熱や鼻汁等、風邪と区別がつかないことがある。その後、咽頭痛や咳が始まり、扁桃や咽頭などに偽膜が形成される。皮膚に膿瘍を起こすこともある。
<動物の症状>
くしゃみ、鼻水、目やに等の風邪のような症状や皮膚に化膿を起こすことがある。