東京都エイズ専門家会議「最終報告」について
- 更新日
エイズ専門家会議では、「東京都の今後のエイズ対策のあり方」について検討してきましたが、このたび「東京都におけるエイズの現状~現在の課題と今後の方向性~」(最終報告)を取りまとめました。今後、東京都では、この最終報告を踏まえ、「エイズ対策推進プラン」(仮称)を今年度中に策定・公表する予定です。
<最終報告のポイント>
HIV感染症の特徴
- 感染経路は限定的であり、基本的な知識と予防行動により十分予防が可能
- 医療の進歩に伴い、疾病のコントロールが可能になったが、完治するものではなく、服薬に伴う健康上の影響などの新たな課題も発生
東京のエイズの現状
- 全国の新規HIV感染者・エイズ患者の報告数の約1/3が都に集中しており、感染経路別では同性間性的接触が約7割を占めている。
- 行政が実施する検査の受検者の約8割が30歳代までの比較的若い世代。発症した状態で感染が判明する40歳代以上の受検が少ない。
- 治療は入院から外来中心に移行しており、陽性者が働き続けながら治療を受けられる環境づくりが重要となっている。
- 陽性者の予後の長期化に伴い、長期服薬や高齢化による様々な健康問題が顕在化、療養支援の必要性が増している。
東京の現状から浮かび上がる課題と今後のエイズ対策の方向性
◇エイズ及びHIV感染に対する理解の促進
- 感染に関する基本的な知識の普及や陽性者への理解を深めるよう支援する観点から、幅広い対象層に向けての普及啓発を実施すべき
◇感染拡大の防止
- 若い世代、40歳代以上の世代、同性愛者等、対象層の行動特性に合わせた発想・手法を用いた予防啓発の実施を検討すべき
- 検査機会を活用した効果的な啓発を行うため、新たな検査相談施設の設置なども視野に入れ、都民の利便性に配慮した検査体制の構築及び相談体制の充実について検討すべき
◇陽性者への支援
- 陽性者が、医療・福祉・就労等について様々な支援を受けながら、長期間安心して生活できる体制の構築について、陽性者の実情やニーズを十分踏まえながら検討すべき
※なお、東京の現状及び課題を分析する際に使用したデータについては資料集として集約
最終報告の概要
1 HIV感染症の特徴とこれまでのエイズ対策
(疾病の概要)
- 感染の自覚症状はほとんどなく、無症状期間も長いことから、自らの感染を知らないまま他者に感染させるリスクがある。 <p2>
- 感染経路は限定的で、基本的な知識と予防行動により感染予防が可能である。 <p3>
(疾病概念の変化)
- 多剤併用療法の発達により「コントロール可能な病」へ疾病概念は変化している。 <p3>
- 陽性者の予後は長期化したが、完治はせず、薬の副作用等による健康への影響や高齢化などの新たな課題も発生している。 <p3>
(国・都の動向)
- 平成18(2006)年3月、国はエイズ予防指針を改正し「疾病概念の変化を踏まえた施策の展開」「国と地方公共団体の役割分担の明確化」「施策の重点化、計画化」等をエイズ対策の基本的方向として位置づけた。 <p3>
- 都は、感染報告数が特に多い16の地方自治体の一つとして国から指定を受け、これまでの施策をさらに充実させるとともに、より効果の高い施策となるよう、施策内容の精査・検討を進めていくべき時期にある。 <p4>
2 東京のエイズの現状の概要
(1)東京都の感染者及び患者の動向 <p6~p7>
- 全国の報告数の約1/3を都が占める。
- 国籍別、性別では日本人男性が9割近くを占める。
- 感染経路別では、同性間性的接触が7割を占める。
- 年齢別では、HIV感染者については20歳代~30歳代が約9割を占める。
- エイズ患者については、40歳代以上で発症してから診断される割合が高い。
(2)HIV検査・相談の現状 <p7~p8>
- 検査数は増加しており、毎週土曜日に即日(迅速)検査を実施している多摩地域検査・相談室では、受検機会を拡大するにつれて検査数も大きく増加
- 平日夜間及び休日の検査を行う南新宿検査相談室の受入数はほぼ限界に達している。
- 受検者の8割は30歳代までの比較的若い世代が占める。
(3)HIV医療の現状 <p8>
- 治療は、入院から外来中心の治療に移行している。
- 陽性者が働き続けながら治療を受けられる環境整備のため、利便性が高く勤務への影響の少ない医療の提供体制が求められている。
(4)HIV陽性者の現状 <p8~p9>
- 多剤併用療法の発達により、コントロール可能な病期の性格が強くなったことに伴い、定期的に受診、服薬しながら学んだり働いたりするための支援が必要になっている。
- 長期服薬や高齢化による様々な健康問題の顕在化が懸念され、療養支援の必要性が増している。
(5)諸外国の動向 <p9>
- 各国における主要な感染経路は国によって異なるが、性的接触(同性間及び異性間)、薬物使用時の注射器共用等が多い。
- 日本との人的交流が頻繁になっているアジア近隣諸国では、近年感染報告が急増している。
- 日本国内のデータだけでは今後の予測を立てるのが困難な面もあり、他国の状況及びそれぞれの国が進めてきた対策を分析し、効果を上げた取組事例も参考にする必要がある。
3 東京都の現状から浮かび上がる課題と今後のエイズ対策の方向性
(1)エイズ及びHIV感染症に対する理解の促進 <p11~p12>
感染に関する基本的な知識の普及や陽性者に対する理解を深められるよう支援する観点から、義務教育の場における取組を一層充実させるとともに、学校・家庭や職場、若者層やそれを支える保護者層、高齢者の層まで含む幅広い対象層に向けての普及啓発を実施すべきである。 <p12>
(2)感染拡大の防止 <p13~p15>
- 若い世代、40歳代以上の世代、同性愛者等、感染予防に向けた行動の支援を必要としている層に対し、対象者それぞれの人権や社会的背景に配慮しながら、対象層の行動特性に合わせた発想や手法を用いた予防啓発の実施を検討すべきである。 <p15>
- 若者に対しては、感染予防の大切さを自分自身の問題として認識できる啓発を、多様な手法を用いて繰り返していくことが有効であり、高校・大学や専門学校等の青年層に対する積極的な働きかけが必要である。 <p15>
- 働き盛りの世代に対しては、職域の担当部門への働きかけ等を通して企業内における健康管理に向けた取組を促すことが重要である。 <p15>
- 同性愛者や外国人等に対しては、コミュニティへの介入など、地域に根ざした普及啓発とともに、コミュニティに繋がりを持たない対象に対してもメディアを通じた情報発信に取り組むことなどを検討すべきである。 <p15>
- 検査受検時や相談場面等の機会を活用して感染予防の行動に結びつくような効果的な啓発を行うため、新たな検査相談施設の設置なども視野に入れ、場所や時間帯等について都民の利便性に配慮した検査体制の構築、性感染症予防も含めた相談体制の充実などについても検討すべきである。 <p15>
(3)陽性者への支援 <p16~p17>
中核拠点病院と医療・福祉施設等とのさらなる連携、人材育成による協力病院のHIV診療体制の向上、病院・保健所・福祉サービス関係機関・NPO等、陽性者の支援に関わる様々な関係機関の連携のしくみの構築、一般医療機関、歯科診療所、薬局、福祉施設等に向けた啓発や人材の育成による陽性者の受け入れの促進、企業へ必要な情報を提供するなどの働きかけを行うことによる就労の継続を希望する陽性者の支援など、陽性者が地域で必要な医療・福祉サービス等を受けながら、長期にわたり安心して生活できる体制の構築について、陽性者の実情やニーズを十分踏まえながら検討すべきである。 <p17>
《資料》
1「東京都におけるエイズ対策の現状 ~現在の課題と今後の方向性~」(最終報告)の概要
2「東京都におけるエイズ対策の現状 ~現在の課題と今後の方向性~」(本編)
3「東京都におけるエイズ対策の現状 ~現在の課題と今後の方向性~ 資料編」
4パブリックコメントの概要
最終報告の入手方法
下記リンクからダウンロードできます。