薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)対策
薬剤耐性とは~抗菌薬を正しく使い、薬が効かない感染症を防ぎましょう~
感染症と細菌・ウイルス等
▷ 感染症とは
感染症とは、細菌・ウイルス・寄生虫などの病原体が体内に侵入し、増えることで起こる病気です。
▷ 細菌、ウイルス、寄生虫とは
細菌:1μm(マイクロメートル)※前後の小さな生物で、自ら細胞分裂して増えていきます。
※μm:1㎜の1/1000の長さ
(例)百日咳菌、結核菌、肺炎球菌、破傷風菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌 など
ウイルス:細菌のおよそ1/100~1/1000の大きさで、自ら増殖することはできません。
他の生物の細胞の中に入り、その細胞を利用して増えていきます。
(例)新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、デングウイルス など
▶【参考】「ウイルスと細菌はどう違うの?」
理化学研究所生命医科学研究センターHP
寄生虫:川や土などの環境中や、他の生物(魚や蚊など)の表面や内部に住み着くなどして生きている生物のことで、大きさは様々です。
(例)マラリア原虫、トキソプラズマ原虫、アニサキス、回虫 など
薬剤耐性とは
~抗菌薬を正しく使い、薬が効かない感染症を防ぎましょう~
▷ ウイルス(風邪やインフルエンザなど)に抗菌薬は効きません
抗菌薬は、細菌による感染症を治療するために使われる薬です。
このうち、カビなどの微生物が作る天然の化学物質を「抗生物質」と呼びます。ペニシリンが代表的な例です。
現在は人工的に合成された抗菌薬も多く、抗生物質は抗菌薬の一種として位置づけられます。
一方、抗菌薬はウイルスには効果がありません。風邪の80~90%はウイルスが原因とされており、抗菌薬を使っても治りません。抗菌薬を服用する際には、正しい診断と医師の判断が重要です。
▷ 薬剤耐性とは
「薬剤耐性」とは、細菌に特定の種類の抗菌薬が効きにくくなる、または効かなくなることをいい、薬剤耐性を得た細菌を「薬剤耐性菌」といいます。
抗菌薬を医師の処方どおりに使用せず、自己判断で服用したりしなかったり、途中でやめたりすると、「薬剤耐性菌」が出現する可能性が高くなります。これは、細菌が完全にやっつけられず生き延びようとして、抗菌薬に対して耐性(細菌が抵抗する能力)を手に入れてしまうためと考えられています。
▶【参考】薬剤耐性菌について「どのように耐性化するのか」
国立健康危機管理研究機構AMR臨床リファレンスセンターHP
薬剤耐性菌の状況
▷ 薬剤耐性菌の状況
薬剤耐性菌の増加が世界的に懸念されています。
2014年に、このまま何も対策を取らない場合、薬剤耐性が原因となる世界の年間の死亡者数が、2050年にはがんによる死亡者数を上回り、1,000万人になることが想定される、という報告※が出されました。
※ Antimicrobial Resistance: Tackling a crisis for the health and wealth of nations The Review on Antimicrobial Resistance Chaired by Jim O’Neill December 2014
また、WHOは、2025年10月13日に2025年世界薬剤耐性監視報告書(Global antibiotic resistance surveillance report 2025)を発表しました。
その中で、2023年に検査で確認された細菌感染症の6件に1件は、薬剤耐性菌によって引き起こされたものであると明らかにし、薬剤耐性菌の拡大について、世界の医療や保健の深刻な脅威となっていると警告しています。
WHO: WHO warns of widespread resistance to common antibiotics worldwide
出典:国立健康危機管理研究機構AMR臨床リファレンスセンターホームページ
▷ 薬剤耐性菌が増えるとどうなるの?
薬剤耐性菌が増えると、抗菌薬の効果が低くなる、あるいは効かなくなることから、感染症の治療が難しくなります。
▶【参考】日本の薬剤耐性菌の状況「医療現場での耐性菌増加」
日本の薬剤耐性菌の状況「薬剤の研究開発~抗菌薬の開発ペースは落ちている~」
理化学研究所生命医科学研究センターHP
薬剤耐性菌を増やさないために
▷ 薬(抗菌薬)は正しく飲みましょう
① 医師の指示された飲み方(1回量・回数・時間)を守り、処方された量を飲み切りましょう。
② 自己判断で途中で飲むのをやめてはいけません。
③ 家族や友人にあげたり、もらって飲んだりしてはいけません。
▷ 感染症を予防しましょう
薬剤耐性菌の増加を防ぐには、抗菌薬を使用する機会を減らすこと、すなわち感染症にかからないことが重要です。
引き続き、手洗いや手指消毒、場面に応じたマスクの着用など基本的な対策を行い、感染症を予防しましょう。
▶【参考】手を洗いましょう(手洗い手順) 東京都感染症情報センター
手洗いの方法 東京都保健医療局健康安全部食品監視課
(動画)めざせ!手洗いマスター あらうさぎと手を洗おう!
東京都多摩小平保健所(東京動画サイトへリンクします)
Q&A
Q1 風邪をひいたので、抗菌薬を処方してもらっていいですか。
A1 風邪の原因は、80~90%がウイルスといわれています。抗菌薬は細菌をやっつける薬で、ウイルスには効果がありません。
医師は、原因に応じて薬を処方していますので、医師に抗菌薬の処方を希望するのは控えましょう。
Q2 症状が治まったら、抗菌薬を飲むのをやめてもいいですか。
A2 症状(腫れや痛み、発熱など)が治まったように見えても、原因となっている細菌が完全にやっつけられていないことがあります。抗菌薬を途中でやめてしまうと、その細菌が再び増えて症状がぶり返したり、薬に対する耐性(薬が効かなくなること)ができたりして、抗菌薬を飲んでも治らなくなってしまうこともあります。
医師から処方された飲み方(量・回数・期間)を正しく守って飲むことが大切です。
Q3 抗菌薬はたくさん飲んでもいいですか。たくさん飲んだ方が症状は早く治りますか。
A3 医師から処方された飲み方(量・回数・期間)を正しく守って飲むことが大切です。
細菌の種類によって、効果がある抗菌薬は異なります。また、年齢や体重、基礎疾患の有無などによっても、必要となる量が異なります。
また、薬には副作用が現れることがあり、抗菌薬も例外ではありません。例えば、おなかの中の環境を守っている細菌もやっつけてしまい、下痢の症状が出たりすることなどがあります。
不安や不明なことがあれば、医師や薬剤師に相談しましょう。
Q4 都内では、まだ薬剤耐性菌は確認されてないでしょうか。
A4 都内でも、いろいろな薬剤耐性菌が確認されています。
最近の注目すべき報告として、2024年11月~2025年3月31日の間に、東京都立小児総合医療センターで、耐性を持つ百日咳菌が検出されました。
▶【参考】東京都の小児病院におけるマクロライド耐性百日咳菌感染症例の検出(https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/IASR/Vol46/543/543p01.html)
出典:国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイトホームページ
Q5 薬剤耐性菌は、薬が日常的に使われる病院などの限られた場所で見つかるもので、身の周りには存在しないでしょうか。
A5 薬剤耐性菌は、病院などの中だけでなく、街や自然の中など、いろいろな環境から見つかっています。
感染症の際に抗菌薬を正しく使わないことで、薬剤耐性菌は発生しやすくなります。
なお、日常生活では、外から帰った後、トイレの後、調理の前、食事の前などに、流水と石けんで正しく手を洗うこと、アルコール等で手指消毒することが重要です。
ペットを含め、動物を触ったあとも、よく手を洗いましょう。
▶【参考】手を洗いましょう(手洗い手順) 東京都感染症情報センター
手洗いの方法 東京都保健医療局健康安全部食品監視課
(動画)めざせ!手洗いマスター あらうさぎと手を洗おう!
東京都多摩小平保健所(東京動画サイトへリンクします)
関連情報
東京都健康安全研究センター 食品微生物研究科
東京都健康安全研究センター 病原細菌研究科
東京都健康安全研究センター ウイルス研究科