調査研究内容の概要(令和7年度)
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7-1 抗菌性物質検査用平板培地作製方法の改良について
~Quick Luteにおける迅速・簡便・安定的な培地づくりの試み~
7-2 検査用ナイフの研磨方法に関する検討及び新人教育用資料の作成(継続)
7-3 牛輸送時の車両構造及び取扱方法に関する実態調査
7-4 3D撮影技術を利用した教育資材の検討
7-5 DXツールを活用した豚の枝肉切除マニュアルの作成
7-6 LC-MS/MS 8060によるアンピシリン、ベンジルペニシリン及びテトラサイクリン系抗生物質試験法(豚筋肉、牛筋肉)の妥当性評価について
7-7 牛伝染性リンパ腫の疫学解析~過去3年分のまとめ~
7-1 抗菌性物質検査用平板培地作製方法の改良について
~Quick Luteにおける迅速・簡便・安定的な培地づくりの試み~
厚生労働省通知に基づく食肉中の残留抗生物質の検査では、抗菌性物質検査用平板(抗菌培地)の作製に3種類の試験菌を用いている。そのうちKocuria rhizophilaを用いた抗菌培地では、作製日数や菌株の性状変化に課題があることから、本研究では継代回数を1回に減らし、迅速、簡便で精度管理に適合する手法(Quick Lute)の開発を試みた。菌株の冷蔵保管に適した容器と培地の比較検討では、TSB入り三角フラスコで培養後、チューブに分注し保管した方法で作製した抗菌培地の阻止円直径が、精度管理基準に最も近い傾向を示し、定量下限も現行法と同等であった。また、三角フラスコの破損によるバイオハザードを防止するため、第3世代の培養に用いる培養容器のディスポーザブル化を比較検討した結果、ストマッカー袋を培養容器として用いた場合のみが精度管理基準に適合していた。今回の結果を踏まえて培地作製の条件等をさらに検討し、引き続きQuick Luteの確立に取り組んでいく。
7-2 検査用ナイフの研磨方法に関する検討及び新人教育用資料の作成(継続)
食肉衛生の向上には、切れ味の良い検査用ナイフ(検査刀)を用いて正確かつ迅速にと畜検査を行うことが不可欠である。しかし、検査刀の研磨方法は個人の感覚に頼った口頭での伝達に留まり、新人検査員にとって習得が困難であった。本研究では、切れ味の良い検査刀を作成・維持することを目的に、グラインダーを用いた研磨方法、やすりがけ方法、刃こぼれ軽減方法について検討した。刃先への着色や顕微鏡観察により研磨状況を可視化した結果、グラインダーを用いて切れ味を上げるためには、反りに合わせた柄の角度調整、ガイドへの密着及び軽い力での研磨が有効だと分かった。やすりがけでは細目やすりを用い、適切な力加減と一定の角度を保つことで切れ味が向上した。刃こぼれ軽減方法の検討では、刃こぼれを3種類に分類し、予防を目的とした注意マップを作成した。これらを基に新人教育用資料を作成し、研磨技術の教育と検査精度向上に資する成果を得た。
7-3 牛輸送時の車両構造及び取扱方法に関する実態調査
国際獣疫事務局(WOAH)の動物福祉に関する勧告を踏まえ、令和5年7月に国が「家畜の輸送に関する技術的指針」(以下、「指針」という。)を公表したことを契機に、都立芝浦と場における牛輸送の実態把握とアニマルウェルフェア(AW)向上を目的として調査を実施した。全国から搬送される牛の輸送車両及びそのドライバーを対象に、車両の構造やスロープの勾配、輸送中および降車時の牛の取扱方法等について、調査・測定を行った。その結果、指針から大きく逸脱する事例は確認されなかったが、輸送中の状態確認や暑熱対策、給水方法などについて今後の取組の参考となる事項が確認された。また、調査実施とあわせて指針の内容を解説した啓発リーフレットを作成・配布し、関係者への普及啓発を行った。
7-4 3D撮影技術を利用した教育資材の検討
内臓検査を中心としたデジタル教育資材の充実を目的として、牛のと畜検査現場において3D撮影アプリを用いた正常臓器等の撮影を行い、教育資材としての有用性を検討した。3D撮影画像は、底面を除く全方位から臓器の形状を把握でき、現場以外でも臨場感のある観察が可能であった。これにより、教育資材として有用であることが確認された。部位別では、頭部、心臓と肺、横隔膜、枝肉において有用性が認められた一方、肝臓や消化管は形状の特性から3D撮影に不向きであった。また、撮影アプリの使用方法や撮影方法等をマニュアル化し、検査員間での撮影技術の共有を図った。今後は、画像加工や病変部の3D撮影等により正常臓器との比較や形態変化を立体的に示すことで、異常所見の理解促進と検査技術の向上に資する教材開発を継続する予定である。
7-5 DXツールを活用した豚の枝肉切除マニュアルの作成
近年、ベテラン職員の定年退職により、と畜検査における技術継承の機会が減少しており、特に解剖学的知識や高度な切除技術を要する枝肉検査においては喫緊の課題となっている。そこで、本研究では職員への事前アンケートの結果を基に、DXツールを活用した枝肉切除マニュアルを作成した。マニュアルは、手技解説動画21本、解剖図、病変部残存事例集等で構成し、検査所内の全職員に公開した。公開後のアンケートでは、全回答者が手技習得や指導に有用と評価し、苦手意識の軽減も確認された。特に、難易度の高い手技を扱った動画は、経験年数の短い職員のOJTから経験豊富な職員の復習まで幅広い有用性が確認された。また、DXツールの活用により効率的な学習やマニュアルの随時更新が可能となり、本マニュアルが枝肉検査手技に関する多面的な学習支援として有用であることが示唆された。
7-6 LC-MS/MS 8060によるアンピシリン、ベンジルペニシリン及びテトラサイクリン系抗生物質試験法(豚筋肉、牛筋肉)の妥当性評価について
食肉への残留が懸念される抗生物質について、通知試験法である「HPLCによる動物用医薬品等の一斉試験法Ⅲ(畜水産物)」を基に、新たに導入されたLC-MS/MS 8060を用いて豚及び牛の筋肉を対象とした試験法の妥当性評価を行った。
その結果、妥当性評価を行った全薬剤(アンピシリン、ベンジルペニシリン、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、テトラサイクリン及びドキシサイクリン)が妥当性評価ガイドラインの目標値に適合した。
機器の新規追加により分析時間が短縮され、従来よりも早く検査成績を出すことが可能となった。また、分析装置が2台となったことで継続的に検査できる体制を整えることができた。今後は手技の訓練・継承を進めるとともに、前処理工程の簡便化や他部位(肝臓・腎臓)への適用拡大を検討し、検査体制の更なる充実を図っていく。
7-7 牛伝染性リンパ腫の疫学解析~過去3年分のまとめ~
牛伝染性リンパ腫(EBL)は牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)感染を原因とする疾病であり、近年その発生数は増加傾向にある。本研究では、EBL発生状況の把握及び防疫対策の基礎とすることを目的に、令和4年度から令和6年度の3年間にと畜検査においてEBL(胸腺型除く)が疑われた牛160頭を対象として疫学解析を実施した。その結果、全検体でBLV抗体が検出され、血液を用いたリアルタイムPCRによりBLVプロウイルス量を定量し、感染細胞率を算出した。外れ値除去後94検体の感染細胞率中央値は18.6%であり、既報と共通の傾向を示した一方、50%を超える高値を示す個体も確認され、農場でのEBL対策の必要性が改めて示された。また、BLV_env-gp51_遺伝子に基づく遺伝子型解析では、G1が97.5%、G3が2.5%であり、日本国内の報告と同様の傾向であった。当所における継続的な疫学的モニタリングは、EBL対策の進捗や状況を評価する上で有用であり、国内のEBL撲滅への一助と考えられた。