調査研究内容の概要(令和6年度)
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6-1 豚の腎炎カラーアトラスの作成について
6-2 牛の顆粒膜細胞腫と中皮腫の重複腫瘍の1例
6-3 豚の小腸炎及び大腸炎の診断並びに廃棄基準の平準化に向けた取組
6-4 検査用ナイフの研磨状況による検査業務の効率化等に関する検討
6-5 精密検査業務におけるDX推進について
6-6 三陰三陽論から考える豚丹毒の4つの病型(第二報)
6-7 Escherichia albertii の豚盲腸便からの分離方法の検討
6-1 豚の腎炎カラーアトラスの作成について
豚の尿毒症を診断する際は腎病変の判断が重要である。しかし、腎病変は多様で観察しづらいため、判断が難しい。そこで今年度、令和5年度の豚腎病変に関する調査研究を踏まえて、と畜検査員の検査技術向上を目的に、BUN(血中尿素窒素)値に基づいた腎炎カラーアトラスを作成した。令和6年度に腎病変を認めた豚50頭を用いて、BUN値の測定、令和5年度の調査研究と同様の病態タイプ分類及び腎臓外観写真の撮影等を行った。これらの検体から、当所で尿毒症疑いとして症例数及び廃棄数の最も多い腎炎型でBUN値の異なる12症例を選び、OneNoteを活用して腎炎カラーアトラスを作成した。腎炎カラーアトラスを作成した結果、BUN値が異なる腎炎型の腎臓外観を比較可能となり、皮質割面の肉眼所見に新たな特徴と傾向の存在が示唆された。また、腎炎カラーアトラスを電子版として作成したことで、追補、更新及び閲覧が簡単な資料となった。
6-2 牛の顆粒膜細胞腫と中皮腫の重複腫瘍の1例
当検査所で見られる牛の腫瘍性疾患のほとんどが牛伝染性リンパ腫であり、牛伝染性リンパ腫以外の腫瘍性疾患がみられることは稀である。今回、当検査所において牛の顆粒膜細胞腫と中皮腫の重複腫瘍の症例に遭遇したため、報告する。症例は29か月齢の雌で、解体後検査では左卵巣に約50×40×20センチメートル大の腫瘤、右卵巣に約20×15×10センチメートル大の腫瘤、胸膜に1センチメートルから4センチメートル大の腫瘤、腹膜に数ミリメートルから1センチメートル大の腫瘤、横隔膜に数ミリメートル大の結節及び肝臓に1ミリメートル大の結節などを認めた。組織所見の結果より、左右卵巣腫瘤は顆粒膜細胞腫と診断し、胸膜腫瘤、腹膜腫瘤、横隔膜及び肝臓は中皮腫と診断した。本症例のように同一個体内に異なる悪性腫瘍が発生することは国内でも非常に少ない。今後も稀な症例が発見された際には、引き続き解析・周知を行い、診断技術の向上に努めていきたい。
6-3 豚の小腸炎及び大腸炎の診断並びに廃棄基準の平準化に向けた取組
豚のと畜検査において腸管内容物による汚染防止の観点から、白物(小腸及び大腸)検査では腸管を切開して粘膜の状態を確認することができない。また、短い検査時間で合否の判断をしなければならないが、腸炎は多様な病態を示すため、と畜検査員により判断基準が異なることが課題である。そこで豚の大腸炎を対象として廃棄判断に関するアンケート調査を実施した。また、合否の判断が分かれる症例について検討を行い、3Dスキャン画像や病理画像を掲載して腸炎アトラスの充実を図るとともに、白物の廃棄基準の作成を検討した。3Dスキャン画像は従来の2D画像と比較して視認性が高く、有用な研修資料であることが分かった。また、大腸炎を原因とする白物の廃棄率が高い出荷者の豚については、大腸の漿膜面、粘膜面及び病理所見に基づく廃棄判断が一貫しないことが示唆されたため、合否の判断が分かれる症例について、当該豚の出荷者における白物廃棄の傾向を考慮した廃棄基準案を作成した。
6-4 検査用ナイフの研磨状況による検査業務の効率化等に関する検討
と畜検査業務の効率化のため、検査用ナイフの切れ味を可視化した。検査用ナイフは、倍率200倍の双眼実体顕微鏡を用いて観察を行った。観察方法や背景色、照明方法を検討し、最適な条件を決定した。また、検査用ナイフの角度を固定するため、観察台の作成を行った。これらの取組により、刃先の構造(切刃、小刃、糸刃により構成)や研磨状況を詳細に観察できるようになった。研磨段階ごとに刃の変化を確認したところ、砥石の粒度が細かくなるにつれ、刃先の微細な刃こぼれが小さくなることが確認できた。加えて、検査用ナイフが切れなくなるメカニズムを解明するため、やすりがけの有無による切れ味の違いを比較したところ、切れ味低下の原因は刃先の潰れや曲がりであり、やすりがけで回復可能であった。一方、刃こぼれはやすりがけで回復不可能であった。今後は刃こぼれの原因や再現性のあるやすりがけ方法を検討し、新任検査員向けの教育を進めていきたい。
6-5 精密検査業務におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進について
検査課精密検査担当が検査業務に使用する物品(試薬、検査用品等)は多岐に渡る。これらの発注作業に費やす時間や商品コード等のご記入による修正作業に加えて、誤発注による納品や試薬等の期限切れは、業務効率を低下させる一因となっていた。また、と畜場におけるHACCPの制度化によって、外部検証(微生物試験)が新たに業務に加わり、厚生労働省が示す報告様式に則った複雑な計算に基づく試験結果の作成が求められ、ミスなく円滑に作成できるシステムの構築が急務となっていた。そこで、表計算ソフトウェア及びクラウドサービスを活用することで、物品検索発注システム及び外部検証(微生物試験)の試験結果作成システムを構築し、効果を検証した。今回開発した2つのシステムを活用することによって、人為的なミスがなくなり、業務効率向上を実現できた。さらに、GLPの一層の適正化に貢献できた。
6-6 三陰三陽論から考える豚丹毒の4つの病型(第二報)
同一出荷者から、発熱の無い蕁麻疹様皮膚病変のある豚が5頭搬入され、内2頭に全身の著しい水腫を認めた。この出荷者からは相次いで豚丹毒を発症した豚が搬入されており、この2頭についても豚丹毒である可能性は非常に高いと考え、東洋医学の考えに基づき考察した。2頭には共通して皮膚病変と膀胱の病変が認められ、三陰三陽の1番目の病期(太陽病)であることが示唆された。また、傷寒論太陽病71条によると、膀胱に達した外邪(病原体)により膀胱の気化作用(水分代謝)が失調し、排尿障害となった結果浮腫が引き起こされる。以上の状況や結果から、2頭は全身性水腫の病態にある豚丹毒感染豚であると考えた。今回の結果から、膀胱の検査は感染症の初期においては重要であることが示唆された。今後も、豚熱をはじめとする他の感染症についても東洋医学の考えを用いるなど、多角的な知見を得て行きたい。
6-7 Escherichia albertii (E.albertii)の豚盲腸便からの分離方法の検討
新興下痢症起因菌であるE.albertiiについて、豚盲腸便からの分離方法を検討した。従来のmEC培地と新しいNCT-mTSB培地を比較した結果、E.albertiiの増菌には両者に差がなかったが、腸内細菌科菌群の発育抑制にはNCT-mTSB培地が有効であった。豚盲腸便2検体を用いた分離では、盲腸便No.1からはNCT-mTSB培地で良好な分離成績が得られたが、盲腸便No.2では発育が悪く分離できなかった。豚の個体差や飼料の違いが影響した可能性がある。NCT-mTSB培地の有用性が確認されたが、更に検討を進めていきたい。