自殺対策の基礎知識
自殺対策の基本認識
自殺の背景には、失業、多重債務等の経済・生活問題のほか、健康問題、家庭問題など様々な要因と、その人の性格傾向、家族の状況、死生観など様々な要因が複雑に関係しています。自殺は、個人の自由な意思や選択の結果と思われがちですが、このような様々な要因により、その多くが心理的に追い込まれた末の死ということができます。
自殺を図った人の直前の心の健康状態を見ると、大多数は、様々な悩みにより心理的に追い込まれた結果、うつ病、アルコール依存症等の精神疾患を発症しており、これらの精神疾患の影響により正常な判断を行うことができない状態となっていることが明らかになってきています。心理的な悩みを引き起こす様々な要因に対する社会の適切な介入により、また、自殺に至る前のうつ病等の精神疾患に対する適切な治療により、多くの自殺は防ぐことができる社会的な問題とされています。
しかし、我が国では、精神疾患や精神科医療に対する偏見が強く、特に、中高年男性は、心の問題を抱えやすい上、相談することへの抵抗感から問題を深刻化しがちといわれています。死にたいと考えている人も、心の中では、「生きたい」という気持ちの間で激しく揺れ動いており、不眠、原因不明の体調不良など自殺の危険を示すサインを発していることが多いです。身近にいる人でも、自殺のサインに気づき難い場合もあるので、身近な人以外の人が、自殺のサインに気づき、自殺予防につなげていくことも課題です。
出典:「自殺総合対策大綱~誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して~」(平成24年8月28日閣議決定)
自殺の背景
NPO法人ライフリンクがまとめた「自殺実態白書2008」によると、自殺の背景には多種多様な危機要因があり、その大部分は下に示す10の危機要因に集中していることが分かっています。
10大危機要因 |
---|
1 事業不振(倒産) |
2 職場環境の変化(昇進、配置転換、転職、降格) |
3 過労 |
4 身体疾患 |
5 職場の人間関係(職場のいじめ、職場の人間関係) |
6 失業(失業、就職失敗) |
7 負債(住宅ローン、連帯保証債務、多重債務) |
8 家族の不和(親子間、夫婦間、離婚の悩み) |
9 生活苦(生活苦、将来生活への不安) |
10 うつ病 |
またほとんどの場合、自殺の危機要因は、それ単独で自殺の要因となっているわけではなく、自殺で亡くなるときには、一人あたり平均4つの危機要因を抱えていたといわれています。このことから、自殺に至る理由が決して単純でないことが考えられます。
自殺に至るプロセス
失業、多重債務、家庭内不和等、様々な生活上の問題によりストレスの高い状態が続くと、やがてはうつ状態に至る場合があります。うつ状態となり、自責感、焦燥感、絶望感等が募る中で、生活上の問題が解決されずに持続していると、やがて自殺について考えるようになっていきます。
このプロセスの中では、2つの相反する気持ち、すなわち「生きたい」という気持ちと、「死ぬしかない」という気持ちの間で揺れ動き、強い葛藤が生じています。