皆さんはふだんお酒とどんな付き合い方をしていますか? 楽しいはずの酒席が、酔いつぶれて苦い思い出になってしまったり、二日酔いになってしまったりすることはありませんか。
カラダに負担をかけすぎず、ココロもよろこぶ “オトナの飲み方”を、アルコール依存症治療の専門家・瀧村剛先生にうかがいました。
難しい質問ですね。医学的にそういった意見もありますが、今のところ確立された結論は出ていないのです。現時点では、お酒を飲むことによるメリットとデメリットのバランスをうまくとって、その人なりのお酒とのよい付き合い方を考えていく、というのが現実的かなと思います。
※ただし、アルコール依存症レベルの方にはこの考え方は当てはまらず、生涯にわたる断酒が推奨されます。治療中の方は主治医の指示に従ってください。
そうですね。医学的にメリットを挙げることは難しいものの、皆さんもご存じのとおり、リラックスができたり、コミュニケーションを円滑にしたり、ストレスの解消といったことがあるでしょう。ただそれらは、スポーツやカラオケ、その他の趣味など、お酒以外でも代替できるものです。
一方で、お酒のデメリットというと、「肝臓に悪い」くらいにしか思っていない方も多いのですが、糖尿病や高血圧などの生活習慣病をはじめ、種々のがんやうつ病など、実に様々な不調をもたらすものです。また、なかには“肝臓だけが強い人”という方もいて、肝臓は平気でも、脳の委縮やお酒によるがんといった、取り返しのつかない事態となることもあるのです。
こうした身体的な問題以外にも、心理的な問題(自尊心の低下や不安、うつ状態の悪化など)、社会的な問題(家庭不和、経済的問題、生産性の低下など)など、思う以上にアルコールがもたらすデメリットは大きいのです。
最近は女性でも飲酒習慣のある方が少なくありませんが、お酒は妊娠や胎児にも好ましくない影響を及ぼしますから、妊娠適齢期にある女性はやはり控えたほうがよいということになります。
ところが、特にお酒が好きな人は、しばしばこれらのデメリットを過小評価しがちです。そのことはぜひ知っておいてほしいなと思います。
確かにアルコール依存症は、お酒を比較的よく飲まれる方でも「自分には関係ない」と思っている方が少なくないのですが、決して珍しい病気ではありません。一生に一度でもアルコール依存症レベルになる人は、日本全体で100万人くらいと推測されていますし、実際に「現時点でアルコール依存症の診断基準を満たしている人」に絞っても、50万人くらいはいると考えられます。
この50万人という数は、全国の「森さん」や「林さん」という名字の人と同じくらいの人数。身の回りに1人や2人はいますよね。つまり、思うよりもずっと身近な病気であることも、ぜひ知っておいてほしいことです。
難しいところですが、酒量で考えてみると、厚生労働省の「健康日本21」では、純アルコール20g(日本酒1合)程度を「節度ある適度な飲酒」としています。
もちろん、20gなら飲んでも何ら問題ないということではなく、「もし飲むならこのくらいまでに抑えましょう」という目安ですね。「飲酒」のページにもまとめられている通りです。
ただしこうした数値は、個人差や遺伝的な背景は考慮されていない、あくまでも日本人全体の平均的な値です。その人に合った適量を推測する手段は、現時点でもまだ確立されていないのです。
とはいえ、アルコールの分解速度に影響する要因として、以下のようなことが知られていますから、ぜひ参考にしてみてください。
飲みたくないのに飲む必要はありません。勧められたときに、自分なりにお酒を断る理由を決めておいて、きちんと相手の目を見て本気で断る。今の時代、それでも「飲め」と強要する方は少ないはずです。
つい飲んでしまうけれど少し量を減らしたい、という方は、たとえば1杯目はビールでおいしく乾杯して、2杯目からはノンアルコールビールに切り替えたり、家飲みやお花見の席であれば、コンビニエンスストアやスーパーで手に入る強炭酸水をお酒代わりにするのもよい方法です(表)。
表 飲酒を減らす方法の例
【お酒を断る理由】
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【酒席での工夫】
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【日頃の心得】
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「ムダなお酒は飲まない」ということでしょうか。一生のなかで、健康で楽しく飲めるお酒の総量というのは、おそらく各人である程度決まっているのだと思います。それをオーバーしたときに、身体や生活に影響が出てしまう。ですから、「楽しく飲めるお酒」だけを大事に飲んでいく。二日酔いするような飲み方や、「昨日はやめときゃよかったな」と後悔するようなお酒、「うさ晴らしの酒だった」と思うようなネガティブな飲み方は避ける、ということです。
そのために「飲酒日記」をつけてみるのもお勧めです。その日に飲んだお酒が、仲間との交流を深めたり、笑顔で楽しく飲めた「よいお酒」だったか、簡単に○×で自己評価してみるのです。客観的に振り返ることで、自分とお酒とのよい付き合い方を見つけていく手立てになります。
お酒を全部否定するのではなくて、「楽しくてよいお酒」と、「ムダなお酒」を分けて考えられるのが、“オトナの飲み方”ではないかな、と思います。
このページの担当は 保健政策部 健康推進課 健康推進担当 です。